ビー・フィールド Web インタビュー
東洋医学入門
『「武」の発想でいやしを極める』
ロハス・スクエア治療院院長 木田実氏

<はじめに>
柔術家が「骨つぎ」を得意としたように……昔から「武」と「医」は深い関連がありました。
今でも、鍼灸(しんきゅう)術や整体術などにたずさわる武術関係者は少なくありません。
今回ご登場いただく木田実氏は、プロ格闘家をへて、“合理的な戦闘術”としての空手と、“実践的な健康学”としての鍼灸術にすすまれた方です。
東京・日本橋のオフィス街に治療院を構えるロハス・スクエア治療院院長の木田氏に、東洋医学のイロハについてインタビューしてみました。
<1. いやされる側からいやす側へ>
山下 “東洋医学はマユツバだ”というヒトがいます。しかし、プロ格闘技家だった木田さんの場合、選手生命を絶つほどのケガをされた時、心身の回復を力強く支えてくれたのが「鍼灸」だったということですね。
木田 私はヒザのじん帯を切ってエライ苦労をしたんです。選手としては“これから”という時期だったので、本当にショックでした。手術をしたものの、足は依然として不調で、自然と鍼灸医にかようようになりました。そして、次第に鍼灸の世界にひかれていったんです。
山下 木田さんが、鍼灸で「いやされる側」から「いやす側」へと立場をかえたキッカケは、何だったんですか?
木田 お世話になった鍼灸師がさばけた方で、ある時、“そろそろ自分でメンドウをみたらどうだ?”といって、鍼(はり)をくれたんです。先生のアドバイスを参考にして自分で試してみたところ、意外にもちゃんと効いたんですね。それで“もっと確実な技術を身につけたい”と考えるようになり、基礎から学びなおすことに決めたんです。
<2. 「バランス」重視の身体理論>
山下 東洋医学では「内臓」の働きを重視し、髪の毛・皮フ・骨・目・神経などの病気も、原因はすべて内臓にあると考えるそうですね?
木田 私たちは、心臓・肝臓・脾臓・肺臓・腎臓の「五臓」の機能がくるうと、カラダに変調がおきると見なすんです。たとえば「肩コリ」でも、“表面がはって内がゆるい状態”だと、「肺に問題がある」とうたがいます。逆に“表面がやわらかいのに内がはっている状態”は、体液の停滞……つまり腎臓に注意したりします。
山下 で、その弱った内臓に鍼やお灸の刺激を与えて、元気づけるという訳ですね?
木田 元気を与えるだけではありません。反対に、興奮しすぎている臓器をしずめてやったりもします。大事なのは「バランス」を整えることなんですね。
山下 そうすると、“元気をあたえる”場合と“しずめてやる”場合では、鍼の打ち方もかわるんでしょうか?
木田 もちろんです。基本的に、鍼を深く打てば「補強」の効果があります。浅く打てば「沈静」の効果が期待できます。その他にも、“鍼を入れる速さ”とか、 “鍼の打つ方向”とか、“鍼の太さや材質”を使いわけて調整していくんですよ。ちなみに鍼の材質には、金・銀・銅・ステンレスがあります。

<3. 鍼を打つ技術と症状を見抜く目>
山下 これだけの種類の鍼を使いこなすのには、相当の技術が必要でしょう?一番細い針なんか、髪の毛のようですね。
木田 繊細な鍼を使いこなすには、ひたすら経験をつむしかありません。水に浮かべたスイカとか、マクラ、木の板などに鍼を打って練習したりもするんです。
山下 どのくらい練習すれば一人前になれるんですか?
木田 「練習の期間」や「知識の数」に頼らなくなれば、一人前ですね。しょせん、手先の技術だけではダメでなんです。鍼を打つ技術は、病状を的確に診断する能力があって、はじめて活きてくるからです。
山下 プロとなると技だけでなく、技を活かす判断力も必要になるんですね。では、「診断」のしかたについて教えてください。
木田 「陰」と「陽」にカテゴライズしながら、症状をさぐっていくんです。どういうことかというと、“エネルギーが不足しているのか?”あるいは“エネルギーが過多になっているのか?”とか、“カラダが冷えているのか?”あるいは“カラダが熱を持っているのか?”といった具合いに、人体バランスをおしはかる訳です。カテゴライズは「陰陽虚実表裏寒熱」の項目にそって進めます。

<4. 武術と共通する「構え」>
山下 診断は、患者さんの顔色をみたり、自覚症状を聞いたりしてくだすんですか?
木田 受診される方の自覚症状を「主訴(しゅそ)」というんですが、主訴はできるだけたんねんに聞きますね。それによって判断材料が充実し、またお互いの信頼関係も生まれるからです。話を聞いた上で、細かく様子を観察したり、直接カラダにふれながら見当を固めていくんです。
山下 カラダにふれると、何がわかるんですか?
木田 鍼灸の触診(しょくしん)で特徴的なのは、「脈管(みゃくかん)」をみることでしょう。この脈管とは、カラダをめぐる血液、神経、その他諸々の働きをトータルにとらえるがい念でして、単なる血管をさすのではありません。このあたりが、科学的にアヤしまれてしまうところなのですが、「物理的な実在」というよりは「機能的なイメージ」としてとらえてみると、それほどトッピョウシのない話でもありません。
山下 おっしゃることは、何となくわかります。私たちをとりまく「物理」と、物理に対する人間の「認識(イメージ)」にはズレがありますからね。物理的な解釈をしようと考えこむより、直感的な認識にしたがった方が合理的な場合もあるでしょう。
木田 そのとおりです。人間の直感のち密さはバカになりません。高度な武術をやっていても、それを深く感じるでしょう?ちょっと話はそれるんですが、脈診(みゃくしん=脈管をみること)の時の立ち方や意識のあり方って、空手の構えがそのまま役立つんです。
山下 「医」でも「武」でも、五感をフルに働かせようとすると、構えはすべて共通してくるのでしょうね。

<5. 東洋医学と西洋医学の比較>
木田 けれど、誤解してほしくないのは、私は直感だけでなく「論理的な思考」も尊重しているんです。人間の「直感」は精密機械といっていいけれど、その感度をみがくためには、物理的な考え方や知識も不可欠だと思うんです。
山下 トップレベルの理数学者が、高度な数式をとく時も直感だそうです。しかし、その直感をやしなうためにも、論理的な頭脳トレーニングは欠かせないのだと聞いたことがあります。
木田 鍼灸の話に戻りますが、私は西洋医学的な知性と、東洋医学的な見識を、同じくらい大事にしています。東洋医学をやっていても、西洋医学のテクノロジーが現代人に欠かせないのは、認めざるを得ませんからね。私の治療院を訪れた方でも、肺炎などのおそれがある場合は、迷わずに一般病院の受診をすすめています。
山下 木田さんは、新薬の臨床試験をうけ負う会社でも働かれていましたね。東洋医学からみた「西洋医学の利点と欠点」とは何だと思いますか?
木田 まず、西洋医学の利点は「即効性」でしょう。“徹底したデータ収集”と“メカニズム解明”の姿勢が、それを支えているのだと思います。一方で、西洋医学の欠点というと、「ゆうずうの利かない」面があげられます。「データの収集」と「メカニズムの解明」がなされていないと、どんな効果も素直に認めないところがあるんです。それどころか、かたくなに否定することすらある……そこがちょっと問題でしょうね。
山下 かたくなな否定……つまり、“まずはうたがってみるべし”という「懐疑主義(かいぎしゅぎ)」は、科学的なスタンスとして肯定されることが多いですね。しかし、それも程度をこえれば、逆に知性をくもらせる危険があるでしょう。
木田 おっしゃるとおりです。ですから、素直にとらえる態度が一番だと思います。たとえ、東洋医学が科学的に不完全でも、それでいやされるヒトがいればいい。というより、東洋医学は“西洋医学のワクにとらわれないところ”がある種の強みであり、魅力なんです。武術の場合でも、物理的に技を理解しようと、直感的に極意をさとろうと、“強い人は強い”という事実に素直であればいい。そういうスタンスでいれば、真理は自然とみいだせるはずです。

<6. おわりに ~「武」も「医」も実践です~>
山下 紙面の都合上、さわりだけのお話にとどめますが、それでも「武」と「医」の関わりは深く感じることができました。
木田 「武」と「医」の共通点は、“実践が基本”という「現場主義」でしょう。道場のカミザで腕組みしているだけとか、院長室に閉じこもってばかりというふうになったら、「武」も「医」もおしまいだと思っています。
山下 たいへん勉強になりました。さて、ここからは私的な雑談なんですけれど、私はひどい肩コリなんです。今度、ためしにみてもらえませんか?
木田 肩コリ・冷え性などは、鍼灸の超得意分野ですよ。任してください。あと、うつ病のような精神病のサポートでも、鍼灸はお役に立てます。
山下 あっ、私の友人がうつ病なんです。セロトニンに作用する特効薬を飲んでいるそうなんですが、その薬は副作用も強くて、使い方を間違えるとかえって気持ちがボロボロになるそうです。ですから、もし私がウツ病になったら、その時はぜひ木田さんにお願いしたいと思います。
木田 うつ病の山下さんですか……たいへんヤッカイそうな予感がしますね。せいぜい武術にはげんで、ココロとカラダのバランスを失わないように心がけてください。
2007年10月10日
聞き手 ビー・フィールド・山下知緒
<木田実氏プロフィール>
1969 年、東京都生まれ。少年期より武道に親しむ。日本少林寺拳法、フルコンタクト空手のほか、器械体操やパワーリフティングなどを経験。シュートボクシングでは、膝や肩のケガからプロ引退を決意。現役選手時代に支えられた鍼灸に魅せられ、東洋医学の道にすすむ。柳川昌弘宗家に師事する二聖二天流柔術憲法を活かしながら、伝統的なスタイルの鍼灸を研鑽中。現在、ロハス・スクエア治療院の院長。運動療法指導も積極的に行う。
※ロハス・スクエア治療院 ホームページ
http://www.lohas-square.com/staff.html