
焼き入れで得たマルテンサイト組織は非常に硬いのですが、不安定な組織で延性がなく、もろいという欠点があります。
そのため刃物などを作る際は、一定温度に加熱してから冷却する作業(焼きもどし)をおこなって、鋼に硬さと同時に粘りを持たせるのです。
鋼の種類と作るものの性質によって、焼きもどしの温度は150℃~750℃以上と幅があり、加熱温度によっては鉄色に変化がない場合もあるので、温度管理が非常に困難になります。
なお、加熱した鋼の冷却方法には、冷却剤に入れて急冷する方法や、空気中でゆっくりと冷やす方法などがあります。
冷却剤には水・油・空気がありますが、それぞれの組み合わせで鋼の硬さと粘りの比率が変わります。
200℃前後でおこなうのは低温焼き戻し、500℃前後でおこなうのは高温焼きもどしといい、300度前後で焼きもどすと、非常にもろい組織に変化(300℃脆性)するので注意が必要です。
カミソリの刃のように切れ味重視で耐久性をまったく必要としないものは、焼き入れのみで焼きもどしをしません。
この場合は衝撃に弱く、簡単に折れてしまいますが、硬く切れ味が良くなるという利点があります。
ある程度の衝撃でも折れないようにするためには、200℃の低温で焼きもどしをおこないます。
この場合は硬さが少し落ちますが、代わりに耐久性(折れ難さ)が少しあがります。
工具類は低温焼きもどしで作られています。
さらに衝撃に対する耐久性(折れ難さ)を強く持たせるには、400℃の高温で焼きもどしをおこなう必要があります。
この場合は低温で焼きもどしをした時よりもさらに硬さが落ちますが、非常に折れにくくなります。
ただし、曲がってしまう可能性があります。
ナイフの一部が高温焼きもどしで作られています。
このように焼きもどしの方法ごとにメリットとデメリットがありますので、鋼の加工目的にあわせて焼きもどしの方法は選んでください。
(by 武屋正)